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エネルギーウォーズ 【1】
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2800万世帯争奪戦
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中川 順一
 電力会社によるオール電化推奨のCM、電機業界各社によるIHクッキングヒーターやエコキュートなど電化厨房・給湯機器の宣伝攻勢、それに対抗し、デザイン性と利便性を備えたガラストップコンロを武器に対抗する都市ガス会社……家庭用厨房・給湯をめぐるエネルギー間の攻防は熾烈を極めている。その中でともすれば埋没しがちな、プロパンガス(LPガス)業界。しかし、プロパンガス利用世帯は依然、全国総世帯数の半数以上の2800万世帯を占めている(資源エネルギー庁資料)という事実もある。
 そして「電気」対「ガス」の家庭用エネルギーの争奪戦が、プロパンガスの存在を脅かしているのである。

 

※月刊BOSS 2006年6月号

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既に30年前から競合関係

  国内におけるプロパンガスの登場は、昭和30年代初頭のこと。当時、都市ガス導管は都市の限られたエリアにしか存在せず、郊外の急速な都市化や人々の生活向上意欲を満たすために、薪炭に代わる家庭用エネルギーとしてプロパンガスは急速に普及した。やがて昭和40年代後半になると、都市部の都市ガス導管は整備され、さらに郊外への導管の伸延がはじまる。当時、大手都市ガス会社は、毒性のある石炭ガス等から、天然ガスへの大がかりな転換を開始した時期であり、供給先拡大は至上命題だった。
 一方のプロパンガス事業者は、公益事業特権として地域独占などさまざまな保護を受けている大資本=都市ガスが、中小事業者であるプロパンガス事業者を不当に圧迫していると反発し、昭和50年代には国会請願デモを展開するなどして抵抗した。競合関係といっても、プロパンガスから都市ガスへの一方的な転換であったから、プロパンガス事業者にとっては、まさに死活問題であった。
 この時期の、政治をも巻き込んだ「都市ガス」対「プロパンガス」の戦いは、その後一定の小康状態を迎える。全国で都市ガス転換時の補償のルール化が進み、住宅着工件数の伸びなど経済の一定の成長の中で、都市ガスとプロパンガスの共存、棲み分けが行われていたわけだ。

規制緩和により新たな戦い

  しかし最近、都市ガスとプロパンガスの共存体制に微妙な変化が生じはじめている。経済の低成長、人口減、そして環境問題を踏まえた省エネ化と、さらに「エネルギーの規制緩和」がそうさせているのである。
 電力業界は規制緩和=自由化への対応策として、オール電化攻勢という形で一般家庭用需要の獲得を強化している。その結果、昨年の全国の新築注文住宅の実に37.6%がオール電化となる(本誌調べ)など、厨房や給湯でのガスのシェアが脅かされる中で、都市ガス業界も「プロパンガス業界との棲み分け」など流暢なことが言えなくなってきているわけだ。
 エネルギーの規制緩和は、わが国のエネルギーコストが他の先進諸国に比較して高いという指摘から、内外価格差の是正を目的としてはじまった。石油については1996年の「特定石油製品輸入暫定措置法」の廃止による輸入の自由化、さらに2002年の「石油業法」の廃止による精製設備新増設の自由化などの緩和策が実施された。SSへのセルフ給油方式の導入などもその一環だ。電力(電気)では、95年の卸電力分野への競争原理導入に続き、2000年に地域独占を解き、大規模工場、デパートなど2000kW以上の小売の部分自由化を実施。ガスも95年に小売の部分自由化が実施され、年間契約ガス使用量が従来100万立法m(大規模工場)以上が自由化された。送電線やガス導管は既存会社のものを使用する「託送」などにより、自由販売ができるようになったわけだ。
 さらに2003年6月に電気・ガス両事業の関係法律の改正により、電力は2004年から5000kW(中規模工場、スーパー)以上、2005年から50kW(小規模工場、ビル)以上へと自由化が拡大し、家庭用を含む全面自由化は2007年からの検討開始となっている。同じく都市ガスも、2004年から50万立法m(中規模工場)以上、2007年からは10万立法m(小規模工場)以上が自由化対象となり、2007年以降は家庭用を含む小規模需要家への自由化範囲拡大が検討されている。現在、一般家庭においても電気やガスの「料金プラン(選択約款)」という形で、さまざまな割安な利用料金を選択できるようになってきているのも、料金規制緩和の結果である。

オール電化で、ガスは需要家減

 規制緩和により都市ガス業界は「地域独占」といった特権・特典を失う代わりに、料金戦略などで大幅にフリーな競争が可能となる。例えば、これまで都市ガスの敷地内の配管敷設費用は使用者の負担とされ、それが都市ガス転換のネックとなっていたが、それらが見直される可能性もある。自由競争の中で、配管費用負担や料金設定に自由度があったプロパンガス事業者としては、同じ土俵で都市ガスと戦うことになり、「都市ガス会社はオール電化による減少をプロパンガスで取り返すのでは」という憶測も加わって、大きな脅威となっているわけだ。
 個別供給のプロパンガスは災害復旧が早いなどのメリットがある反面、個別供給であるが故のコストにより、少量消費では都市ガスよりも割高となる。床暖房や暖房乾燥など使用機器において都市ガスとプロパンガスの差異はまったくなくなっており、事故率は都市ガスより低いと胸を張るプロパンガス業界ではあるが、いまだにプロパンガスは「遅れている」というイメージが一般的。大手都市ガス会社がプロパンガスからの転換攻勢を積極化した場合、プロパンガス事業者の多くはオール電化攻勢との挟み撃ちを受けることになる。

ガス体間の垣根を取り払う動きも

  もちろん都市ガス、プロパンガス両業界とも、これまでの共存関係を清算し、対決を鮮明にするとは明言していないし、「対電化」での共闘を模索する動きもある。東京ガスは電化対策の研究会「Gライン」を立ち上げ、広くプロパンガス事業者の参加を呼びかけており、またプロパンガス業界の業界横断のフォーラム「タスクフォース21」では、会員資格を「LPガス事業者」から「ガス体エネルギー事業者」と変更し、「都市ガス」と「プロパンガス」の垣根を取り払おうとしている。
 「Gライン」の命名者で、「タスクフォース21」を主宰する牧野修三氏(注)は、昨年、東京ガスのサービスショップ「エネスタ」の買収を発表し周囲を驚かせた。プロパンガスの大手小売販売会社カナジュウ・コーポレーションの社長であり、業界団体(社)神奈川県エルピーガス協会の役員として永年東京ガスとの転換交渉に立ち会ってきた牧野氏が東京ガスに急接近したからだ。
 その牧野氏はこう語っている。
――オール電化対策は、競争の軸を「対電化」から、例えば「環境」などへと転換させるべきではないか。ガス側で「オール電化反対」と言っても、「それはあなたたちの業界の勝手でしょう」とお客様の支持は受けられない。都市ガス、LPガスの電気に対する環境面での優位性は、あまり知られていない。それを知らせつつ、オール電化対抗ではなく、環境に優しいエネルギーの提案事業、あるいはCO2排出量削減の提案競争へと移行させていくべきだ。エネルギー事業者としてお客様に訴求すべきポイントは「環境・省エネ・省マネー」。これらがまさに、我々LPガス小売業の新たなる事業ドメインの再定義のキーになるだろう。環境事業、省エネ事業、省マネー事業としてお客様にどのような付加価値を提案できるのか、それがこれからの我々の課題であり、そのための情報を東京ガスから得られるのなら、それも良い――。
 果たして、プロパンガス事業者は「付加価値提案事業者」として生き残っていくことが出来るのであろうか。いずれにせよ、規制緩和による電力の家庭需要獲得が、都市ガスとプロパンガスの関係に微妙な翳を落としているのは間違いない。

(注)経済産業省「IT経営百選」で最優秀賞受賞するなど業界での先進経営に定評がある。