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エネルギーウォーズ[3]
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「賢い利用」で光熱費を安くする
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中川 順一
 家庭用エネルギーのオール電化が進んでいる要因は、「スイッチ・ポン」の《先進性》と、過度にイメージされた《安全性》や《環境特性》にある。対して電化に侵食されるガス業界側からは、炎が見えないことによる火傷や火災の危険、IHクッキングヒーターが発する電磁波の問題、生産から消費までのCO2の総排出量の問題等々を列挙し、オール電化はガスに比べて必ずしも安全ではなく、安全面、環境面で問題を抱えており、「イメージ先行」であるとの指摘がなされている。さらにもうひとつ。オール電化PRのキーワードであり、電化選択の大きな理由である「光熱費が安くなる」も、「事実であるかもしれないが真実ではない」との見方がある。つまりオール電化の電気料金は、必ずしも安いわけではなく「安くみせているに過ぎない」と批判しているわけだ。

月刊BOSS 2006年8月号 掲載元原稿
  
 

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1+1=1。オール電化にすれば安くなる!?

  IHクッキングヒーターとガスコンロを並べてお湯を沸かしてみる。小鍋やヤカンなら、IHの方が早い。けれどもパスタを茹でる寸胴鍋にいっぱいの水ならば、ガスコンロの方が早い……いずれも、条件の設定により「一概には言えない」という注釈がつく。テレビCFで盛んにPRされている「IHは火力が強い」は、「事実であるかもしれないが、真実ではない」と言われる所以である。
 オール電化にすれば、光熱費が年間約7万9千円も安くなる――関西電力は電気とガス(大阪ガス)を使用している標準的な家庭が、オール電化に転換した場合の光熱費をシュミレーションし、そう宣伝している。電気とガスとを使うよりも、電気だけにした方が、光熱費の合計が4割も安くなるというのだ。
 電気の料金体系は、従来、使えば使うほど単価が高くなる「逓増制」が採用されていた。使用する電力量に応じた基本料金の設定も、低いアンペア数ほど安く、アンペア数が高くなれば高くなるというしくみ。これは、戦前・戦中・戦後と一貫して「電気は足りない」「電気をたくさん使うのはお金持ち」という時代の発想から生まれてきたもの。また、電力の生産、すなわち発電は、常にピークを想定して設備投資されてきたが、それにより生じるピーク時と非ピーク時の差が電力会社のコストとして、電気料金を押し上げる要因ともなっていた。ガスや石油などのエネルギーは、一般に一度に大量に消費すればコストが下がる。ところが電気の場合、一時の大量消費よりも「消費の統制」、負荷を平準化することによってコストが下がるという特性を持っているわけだ。
 いわゆる「深夜電力」はこうした背景から生まれたもので、電力需要の少ない深夜・早朝の料金単価を大幅に安くし、需要の多い昼間の料金を割高にするというものだ。関西電力の時間帯別単価料金「はぴeタイム」の場合、通常料金1kWhあたりの料金単価23.32円が7.22円/1kWhの格安単価が適用される。しかしそれが適用されるのは、深夜23時から翌朝7時までで、その他の時間帯は20.67円。10時から17時のデイタイムは27.06円という通常より16%も割高な単価が適用されてしまうこととなる(平日)。したがって「深夜の安い電気にお湯を沸かす」というオール電化も、昼間お湯を使いすぎてお湯の沸かし直しをすれば、かえって割高なお湯となってしまうわけだ。つまり、負荷平準を目的とした電力料金プランの恩恵を得るためには、利用者側に「賢い利用」が求められるわけだ。
 電力や都市ガスなど公益事業の料金の算出方法は、従来は「コストの回収」を基本としていた。しかし、エネルギーの規制緩和の中で選択約(料金メニュー)として「経営の効率化に資するもの」まで認められるようになってきた。負荷の平準化は電力会社の経営効率化につながり、それが電力料金全体の低減につながるなら良しとするというのが深夜電力など「選択約款」の趣旨であり目的である。ところがそれは拡大解釈され、調理も給湯もすべて電気にすればさらに割引するという、オール電化料金が登場しているわけだ。
 電力業界では既に、規制緩和による自由化で大口電力需要化向けの新規参入や料金競争が始まっており、人口減や環境問題などからエネルギーの総需要は伸び悩むことが予想されている。電力会社としては、今後の経営を維持するためには、安定した需要が見込める「家庭用」、とりわけ他エネルギーへの代替がない「オール電化住宅」を一軒でも多く獲得しておきたいわけだ。
 「1+1=1。オール電化にすれば基本料金がひとつになる」。オール電化を推進する中部電力が、一昨年から展開しているこの広告コピーには、「負荷の平準化による効率化」を超えて、「需要の拡大」のため「電気による家庭用エネルギーの一元化をめざす」電力会社の意図と決意とが明確に現れている。

「ガスの深夜料金」も登場!?

  ガス業界が「付加価値競争」を言い始めたのは、電気の「1+1=1」に対抗するための「1+1+A+B」という新しい方程式が求められているからで、都市ガス会社、プロパンガス会社でも、選択により「おトクな料金」が利用できる「料金のメニュー化」が進められている。使用されたガスを、調理・給湯・暖房など用途別や時間帯別に分割計量する「ハイブリット・カウンタHyC5」を開発した東洋計器・土田泰秀社長は次のように語っている。
 「従来はガス料金も電気料金も、従量料金×単価+基本料金のy=ax+bの『一次方程式』だった。ところが、深夜電力など電力の選択約款料金は、これに季節や時間帯という要素を組み入れた『マトリックス』型の体系を採用し、おトク感を演出することで給湯需要を獲得しようとしている。ガスが『一次方程式』で深夜電力料金に対抗しようとすれば一律値下げしかないが、それはガス事業者の経営を圧迫する。だからこそ、ガス料金の体系にも『マトリックス』型の考え方、つまり時間帯や季節を考慮した体系が必要なのだ。我々が開発したHyC5は、用途別ばかりでなく、1時間単位での時間や曜日でのガスの使用を分計することが出来る。調理・給湯・暖房など用途別でも、ライフステージに合わせた時間でも、自由にガス使用量を分割計量できる。だからガスの深夜早朝料金や休日料金、1週間お得な50時間……等々の設定も可能なのだ」。
 6年前、まず料金規制のないプロパンガス用で開発されたHyC5は、次いで料金認可制の小規模導管供給(簡易ガス)で採用が相次ぎ、昨秋、同じく料金認可制の都市ガス用も開発された。現在全国で約800社が採用し、7万台が設置されている。HyC5の設置を望むガス利用者は、当然、HyC5が欲しいのではなく、HyC5によって計算されるライフステージに応じた料金プランを求めているわけだ。
 「『多く使えば安くする』という従来のガス料金体系でも、同じボンベやタンクから出たガスなのに少量消費と大量消費とで単価を変えていた。団塊世代から娘・息子が独立し、夫婦2人の生活に戻りはじめているいま、もはや『量を使えば安くなる』の時代ではない。利用者は自ら『賢く使う』ことを望んでいるし、用途別や時間帯別料金をトクかどうか判断するのは、利用者であるお客様自身。給湯と厨房でのガス単価の差を、お風呂のお湯代とヤカンのお湯代の差と考える人にとっては、そこでの差に違和感はない。自分が最もガスを使う時間帯に安いガス代を適用してくれるガス会社・エネルギー会社は親切だと感じる人も多いはずで、料金プランはガス事業者・エネルギー会社の提案力そのものだと言える。オール電化の料金プランは本当にトクかどうかを論じるよりも、さまざまな設定方法を提示し、料金プランを選ばせる電力会社の手法を、ガス業界はもっともっと学ぶべきだ」。 エネルギーの規制緩和による電気・ガスの「割安料金」の登場は、単なる価格競争ではなく、価値提案競争をも内包しているとみるべきだろう

土田 泰秀 氏
 東洋計器株式会社 代表取締役社長。名古屋工業大学土木工学科を卒業後、本州四国連絡橋公団に勤務し「大鳴門橋」の設計に従事。昭和53年東洋計器へ入社、平成10年から代表取締役社長に就任。名古屋工業大学非常勤講師等歴任。東洋計器では土田氏の指導の下、電気とガスの使用実態特性を、特殊な電送装置で使用量を十分間隔で計量し続けるとともに、家族構成別の季節別の使用実態についても分析を続けている。

土田氏 コメント
※「ハイブリッド・カウンタHyC-5」
 ガスマイコンメーターと接続することにより、図のようなロジックのもと、時間帯別・需要帯別など使用状況に分けてガス使用量を計測する。これにより、「時間帯別特別料金」や「給湯特別料金」「暖房特別料金」など様々な料金プランの設定が可能となる。