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エネルギーウォーズ 【5】
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湯沸器トラブルに
ガス業界の危機感高まる
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中川 順一
 ここ20年間で30件弱の事故、20人以上の死者を出していたパロマ製ガス湯沸器のトラブル。当初は修理業者の不正改造が原因と主張したメーカー側も、改造以外での事故が発覚する中で一転して謝罪会見に臨んだものの、その対応めぐって批判が高まっている。
 批判は事故の犠牲者や遺族、機器の利用者からばかりではない。全国のガス事業者から、今回のパロマの対応に怒りの声が沸いている。パロマの対応のまずさが連日報道されることで、ガスそれ自体がイメージダウンすることを懸念しているのだ。

月刊BOSS 2006年10月号 掲載元原稿   
  
 

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対応の誤りでマスコミの餌食に

 経済産業省とパロマ(製造メーカーであるパロマ工業と販売を行っている親会社のパロマ)とが、同社製の瞬間湯沸かし器四機種の排気ファンの動作不良による一酸化炭素中毒事故が、1985年から05年11月までに全国で17件発生し、15人が死亡し、重症2人、軽症17人が出たと週末の7月14日に発表した。経済産業省は同日、パロマに対し原因調査や点検を指示し、同社は、類似機種を含めた7機種の全台点検を始めるとともに、点検終了まで使用中止を呼びかけた。
 この時点でパロマは、「製品自体に欠陥はなく、安全装置を不正改造したことが原因」(小林弘明社長)と主張したが、後の調査や報道などにより、不正改造はあったものの、この不正改造は安全装置のコントロールボックス(制御装置)基板の「はんだ割れ」から生じる不具合を修理するために多く取られた措置であり、不正改造以外にも事故が生じていた。また事故件数や死者も日を追うごとに増えていったことから、パロマへの批判は強まった。こうした状況を受け、パロマは連休明けの18日に記者会見し、経年変化による安全装置の劣化が原因の事故もあったことを明らかにするとともに、前社長の小林敏宏会長引責辞任を表明するなど、製造メーカーとしての責任を明らかにし謝罪した。
 「最初に謝らない」「調査する前に自社の責任はないと断言する」対応は、エレベーター事故でのシンドラー社の対応でもそうであったように、主張と異なる事例が明らかとなった瞬間、マスコミの格好の餌食となる。パロマの対応もその典型であり、ワイドショーは連日、事故犠牲者の遺族の怒りを放映し、欠陥商品の放置が多くの死者を出していたかの印象の報道を続けた。全国のガス事業者には、利用者からの「うちの湯沸し器は大丈夫か」の問い合わせが続いている。
 今回、行政側が長期間事態を把握できなかったことに対する批判もあった。同社製湯沸器による事故は、92年1月に奈良県内のアパートで起き、その4日後には神奈川県内で発生し、さらに4月には札幌市で起きるなど連続発生していた。これらはいずれもプロパンガス利用であったため、当時の通産省のLPガス(プロパンガス)の担当部署である液化石油ガス保安対策室はパロマに事故原因の究明などを求めたという。また、同対策室は93年3月にプロパンガス業界向けに「CO中毒事故防止マニュアル」を作成し、業界団体を通じて注意を呼びかけた。ところがこうした事故防止マニュアルはプロパンガス事業者向けだけで、都市ガス業者向けには作成しなかったことが分かった。その後、プロパンガスの死亡事故はなくなった。これに対し、都市ガスでは94年以降事故が相次ぎ、7人が死亡。昨年11月には東京都港区で1人が死亡するなど事故が多発しており、省内の連携不足が露呈している。
 二階俊博経済産業相は記者会見で、「もっと早い段階で感知すべきだったという批判は当然のこと」と述べ、同省の対応に遅れがあったことを認めた。その上で、事故の徹底的な原因究明と再発防止に向けて全力で取り組むことを強調している。マスコミ対応だけをみた場合、行政側の方が学習効果があるようだ。

一斉無償交換でイメージダウンを防ぐ

 パロマの対応に業を煮やした全国エルピーガス卸売協会北海道地方本部(道卸協)は、経済産業省が点検を指示した7機種についてただちに無償交換を開始し、19日までには同本部に加盟する事業者が直接ガス供給をしている利用者についての点検と交換を完了した。さらに同本部は、20日には小売事業者の業界団体である社団法人北海道エルピーガス協会(道協)に対しても無償交換の実施を要請、これにより道内のプロパンガス販売事業者約2,000社のすべてが無償交換を実施することとなった。パロマ側も無償交換を表明していたが、早急な対応による安全確保が必要と判断し、業界団体としても交換が決定されたわけだ。交換費用はパロマ側に負担を求める方針だ。
 今回のトラブルでは、当初の発表時点で死亡事故の半数以上が北海道内で発生しており、その後も道内での事故が報告されている。故障原因となる「はんだ割れ」は寒冷地の方が発生しやすいことが原因ではないかと推測されており、過去にも、実際に事故が起きた4機種以外にも同社製の湯沸器に不具合が多発した機種があることを道卸協と道協はつかんでいた。
 道協からの報告を受け、パロマ側は2000年12月に自主点検を開始したが、この不具合による事故は確認されなかった。しかし道協では、亀裂により一酸化炭素が漏れ出す可能性が否定できないとして、01年5月、全国に流通している約4万台の回収を文書で要請した。ところが、パロマ側はこの要請を受け入れなかったという。
 同道卸協と道協はこうした経緯からパロマの対応に対する不信感があり、今回の業界ぐるみでの無償交換の決定となったわけだが、それ以上に、今回の一連の報道による道民のガス離れを警戒しての措置でもある。
 もともと灯油王国である北海道は、ガスは台所のコンロ用にわずかに使われるだけであった。しかし、給湯での湯温制御の良さや機器寿命、使い勝手などのメリットから、20数年前から都市部の集合住宅を中心にガス給湯が採用される例も増えていた。ところがここにきて、オール電化という強敵が、ガスの領域を脅かしているのだ。1988年当時、2,500戸程度だったオール電化世帯は、今年5月には8万戸を突破(北海道電力発表)し、道内総世帯数の3.5%となっている。
 ここ数年、自由化による割安な電気料金を大々的にアピールしている北電は「オール電化」よりも、まず灯油暖房と共存し、台所のエネルギーをIHヒーターに転換する「部分電化」を推奨している。寒冷地である北海道の住民は、電気での暖房にはまたまだ抵抗感があるからだが、実際は、北海道の住宅は本州の住宅に比べ高気密・高断熱に設計されているため、電気暖房でも十分対応できる。こうした事情から、灯油やガスが道内の一般家庭から駆逐されようとしているわけだ。
 これに対して灯油やガス業界は、オール電化の弱点のひとつとして、大きな貯湯槽を要する給湯分野を軸に、一般家庭のシェアを守ろうとしてきたが、最近は、貯湯槽を必要としない寒冷地仕様のエコキュートの開発など、灯油やガス給湯を脅かす電化機器も登場し、家庭用エネルギーの争奪戦は激しさを増している。
 安全イメージを先行させるオール電化攻勢の中で生じた今回の問題は、ガス事業者にとっては自殺点に等しい。業者団体が問題機器の一斉無償交換に踏み切るのも、利用者の不安を一日でも早く払拭し、ガスのイメージダウンを食い止めたいという狙いがあるからだ。
 今回の業界による無償交換を決定した全国エルピーガス卸売協会北海道地方本部の赤津敏彦氏(総合エネルギー会社であるエア・ウォーター専務)は次のように語っている。
 「確かにこの間のパロマの対応は問題が多い。しかしそれをパロマという一企業の責任だとして眺めていては、ガス業界にとって致命的な問題となりかねない。要は、お客様の不安を取り除くためにすぐに行動することが大切で、それは心配な機器はすぐ取り替えるということだ。今回の件では事故発生の状況から地域的にも温度差があるようだが、ガス業界全体の危機として受け止める必要がある」と。