エネルギーウォーズ【6】原発問題は正しく伝えられているか


 家庭のエネルギーとしてガスを利用するか、すべて電気で賄うか、それは利用者が使い勝手や安全性、そして経済性を比較して選択するわけだが、近年はそれに加え、環境に良いか悪いかも、選択肢となっている。いまや地球環境に優しい暮らし方はステイタスであり、それを満足させるエネルギー利用提案は、人々に好感を持って受け入れられるのである。
 いずれにせよ、選択にあたっての比較情報が利用者に正しく、十分に与えられていなければならないわけだが、家庭用エネルギーにおけるガス対電気の戦いでは、オール電化の普及速度の速さからも、いまのところ、ガス側の分は悪い。電力業界は圧倒的な資金力で、電機業界とともにマスコミを動員したイメージ戦略を展開しているのだから、とても勝ち目はない……そう嘆くガス業界人も少なくないのである。家庭内エネルギーの電化の流れは止められなくとも、オール電化ではなく、ガスと電気の棲み分け=ベストミックスが、使い勝手だけでなく、国のエネルギー政策上も有効ではないかとの意見も多い。
 また一方で、国民は国内のエネルギー利用が抱える問題点について、正確な情報提供を受けていないのではないかという指摘もある。その大きなもののひとつが、原発とプルサーマル問題である。
※月刊BOSS 2006年10月号 掲載元原稿


 「トイレのない家をつくる」プルサーマル計画

 去る8月21日、神奈川県民ホールにおいて「原子力発電に関する講演会」が開催された。約400名の聴衆を前に、講師である衆議院議員の河野太郎氏(写真)はこう切り出した。

 「私が核燃料サイクルやプルサーマル計画の問題点などを指摘すると、『河野は原発反対と叫んでいる』という人がいるが、それは違う。核燃料サイクルは構造的な矛盾を抱えており、このままでは将来に大きな問題を残すということと、それを防ぐためには、段階的に原子力発電への依存から脱していくべきではないか、ということを伝えている。いますぐ原発を止めろと言っているわけではない」と。

 核燃料サイクルとは原子力発電所(原発)から出た使用済み燃料を、再処理して使用する一連の流れのことで、特に生成されるプルトニウムを消費させる取り組みがプルサーマル計画と呼ばれるものである。

 自身のブログをはじめさまざまな機会に、核燃料サイクルの問題点について発言している河野議員の指摘をごく大雑把にまとめると、次のようになる。

 国が考える使用済み核燃料の再利用計画は、輸入してきたウランを原発で燃やし、その使用済み燃料を六ヶ所村の再処理施設でプルトニウムにし、それを高速増殖炉で増殖して再利用するというもの。この計画は1960年代にスタートしたが、高速増殖炉の稼働は1970年時点で「30年後になる」とされていたのに、30数年が経った現時点では「2050年頃にメドがたつ」とされている。つまり、実用化のメドがたっておらず、しかも、実験炉のもんじゅは大事故が起き現在は停止中である。

 一方で、核兵器の材料にもなるプルトニウムを、わが国はこれまでの原発稼動ですでに40トンも保有している。国際的に問題視されている北朝鮮のプルトニウム保有が、推定10キログラム程度であることからすれば、わが国のそれが実に膨大であるかがわかる。米国らはこのプルトニウムがテロ組織に渡ることを警戒しており、国も電力業界もその処分に頭を悩ませている。

 プルサーマル計画はこうした背景から生まれたもので、ウラン9対プルトニウム1で混合したMOX燃料にして現在の原発で利用するというものだが、確かにウランを1割節約できるが、このためには何十兆円の新たな投資が必要となる。当然、ウランを輸入した方が割安なのに、「プルトニウムがすでに沢山あるから」のプルサーマル計画であり、非常に効率の悪い無理な構想である。

 しかも、現在、原発から出る使用済み燃料を保管する貯蔵プールは限界に近づいており、今後の保管を、大きな貯蔵プールを持つ六ヶ所村の再処理施設に持ち込むためには、やむなく再処理施設を稼働させることになる。そうすると年8トンのプルトニウムが発生することとなり、すでに40トンも余っているのに、毎年8トンも新たにつくる悪循環を招こうとしている。

 さらに、再処理によりプルトニウムを取り出すと、高レベル放射性廃棄物が残り、これは地層処分と言われる方法で、地中深く安全な場所に埋めるしかない。ところが地震国日本では適地が少なく、また、この地層処分は埋めたあと300年経ってようやく安全レベルになるというもの。これはまさに究極の先送りであり、原発核燃料サイクルは「トイレのない家」のようなものである。

 電力会社は地球温暖化防止で、原発はCO2を排出しないので地球にやさしいとPRしている。プルサーマルも「核燃料をリサイクルして使う」といった言いまわしで伝わっているが、現実は、このようにプルトニウムの行方ははっきりせず、また高レベル放射性廃棄物の処理方法も決まっていない。国は六ヶ所村の再処理施設の建設には7,000億円かかると言ったが、実際は3倍の2兆円以上かかった。プルサーマル計画には政府は40年間で19兆円かかると言うが、実際にはその3倍か4倍はかかるのではないか。その額は、消費税が1%分増税されるのに匹敵する。

 現在の原発と核燃料サイクルはこれだけの問題を抱えているのである。

 客観的で公平な情報をもとにしたエネルギー提案

 では、どうすべきか。河野議員らの主張は、「使用済み核燃料を取り出すのは止めよ、六ヶ所村の再処理施設は動かすな、と議論は筋が通っている。電気料金への上乗せでこうしたプルサーマル計画が進むのはおかしい。これを国民的な議論にして、平時、非常時の両面を見据えたエネルギー政策のあり方を考えていかねばならない」というもの。そして現実的な対応としては、「ただちに原発を止めろというのではなく、核燃料から新エネルギーへと移行を具体的、段階的に進め、その間の繋ぎを天然ガスなどで進めていくべきである」というもの。言うなれば、電気とガスとのベストミックス提案であり、さらに「災害を想定すると、燃料電池のようなものが今後の大きな流れになっていくだろう」と分散型熱源の促進を提唱している。

 このように、多くは隠蔽、あるいは議論されずにあった原発と核燃料サイクルの数々の問題点を指摘したこの日の講演会の聴衆約400名は、大半がプロパンガス事業者であった。実はこの講演会は、神奈川県内のLPガス事業者で組織される(社)神奈川県エルピーガス協会(菊池鴻逸会長)が主催し、会員であるプロパンガス事業者と一般消費者とに呼びかけて開催したものである。同県協会では今年の後半から、オール電化対抗のための「直火キャンペーン」を展開する。このキャンペーンは、厨房、給湯、暖房でのガス利用促進を、ガス販売業者、ガス輸入会社、ガス機器メーカーなど業界が一丸となって訴えていこうというもので、その開幕にあたって、事業者自らがエネルギーについての知識と理解を深めることを目的に開催されたのが、この講演会である。開催にあたって同協会副会長・重田照夫氏(写真)は開催趣旨を次のように語っている。

 「我々は日頃からIHクッキングヒーターの電磁波問題や電力会社の環境負荷に関する数字の問題点、強引なオール電化営業や不法工事などについて指摘しているが、そういう現場での受身の電力批判、電化反対ではなく、もっと大きな視点で、日本が抱えるエネルギー全体の問題の中で、エネルギー事業者としての我々がどのようなスタンスで事業を行い、発言をしていくべきかを考えねばならない。そのための学習として、まずは電力業界にとって最も大きな問題であり、国民に対してわかりずらい情報となっている原子力の問題を取り上げた」。

 河野議員と同県協会とは「たまたま選挙区が神奈川県内にあるだけで、支援したり圧力をかけたりといったことはまったくない」(重田副会長)関係。「客観的で公平な情報を、まず我々こそが得ていなければ、お客様にエネルギーのことを伝えることはできない」という判断からの人選だ。

 現実の問題としては、ガスから電気を発生させる燃料電池が実用化されるまでは、ガスのみで家庭用エネルギーが賄える状態は成立しない。一方で、オール電化は現時点で、厨房、給湯、空調を含めたすべてを賄うことが可能だが、その選択は、単にガス事業者の事業を脅かすだけでなく、国家としてもリスクの大きい選択ではないかというのが、ガスと電気のベストミックスを提唱する側の論拠なのである。