大震災から何を学ぶべきか


■震災の事象を「想定の内」に取り込んでいこう
 未曽有の大災害で「想定外」の言葉が行き交っています。
 しかし私たち経済人は、予想外の事象がもたらした被害と悲劇から、一日も早く立ち直り、新しい歩みをはじめるためにも、今回の事象を「想定の内」に取り込んでいく必要があります。
 エネルギーサービス業界への情報提供を行う当社では、その観点からの情報の収集と提供、出版と提案活動を行ってまいります。

 東日本大震災後のエネルギーサービス事業者のために、Consul Firm Contentsとノラ・コミュニケーションズは以下の取り組みを行います

●震災の「想定外」事象の収集と「想定内」化の検討・情報提供
●「オール電化」の今後も含めたエネルギーの複合・融合提案のための情報提供
●災害時情報ネットワーク構築のための情報提供・提案活動
●エネルギーサービス事業者「危機管理マニュアル」の発行
●被災地支援活動への協賛や支援企画の立案

■オール電化営業への逆風
 大地震と大津波に加えた想定外の事象としては、原発問題が挙げられます。原発事故そのものを「想定外」と言い切れるかどうかは見解がわかれるところですが、風評を含めた放射能被害や計画停電は、まさに「想定外」と言えるでしょう。
 電力不足による節電要請と計画停電の実施の中で、東京電力グループは早々にオール電化営業を停止しました。「Switch!ON」や「オール電化館」を展開する事業者は、2階に上げられたまま梯子を外された感があります。機器の供給不足もあいまって、東電管内以外のエリアでも、電化営業は自粛気味であり、逆風が吹いています。
 いずれは深夜電力料金の見直しもあるかもしれず、何よりも「ガス配管が残っていたら割安電力料金は適用しない」という対応は今後いよいよ許されなくなるはずです。「電気を売りたいがためだけのオール電化営業」は破綻しました。

■総合エネルギーショップの影響は少ない
 一方で、「お客様が望むならば電化も扱う」「電力会社の看板があった方がお客様が安心する」という観点で電化機器やオール電化リフォームを扱ったLPガス事業者は、「それほどの影響はない」としています。「お客様がオール電化を望まなければガス併用を提案する」「電力会社のイメージが悪いのならば看板をおろせばいい」という考え方であるからです。総合エネルギーショップは、「ガスだけ」「電化だけ」ではない、エネルギーの複合・融合提案を行うわけですから、震災でバランスがとれたとも言えるわけです。
 電力会社に快く思われなくても、オール電化施工後もガス配管の余地を残しておいたり、エコキュート故障時に仮設ガス給湯を提供できることを提案していた事業者は、お客様本位の経営姿勢がここにきて改めて評価されているわけです。

■想定外の計画停電に分散・自立型の確立を
 計画停電がガス業界と利用者に与えた「想定外」は、「停電中はガス機器も動かない」ということです。
 電池式のガスコンロやバランス釜など、「古い」機器は使えて、ガス給湯器やガスファンヒーターは使えません。「新しい」Siセンサーコンロは、AC電源仕様タイプだと弁が開かず、マッチがあっても火をつけることができません。発電機であるはずのエネファームやエコウィルも、電源がなければ発電しないということが、広く知られることになりました。エネファームに至っては、作動中に停電すると故障することもあるといいます。
 停電で換気装置が作動しない場合は、業務用ガス厨房機器も使用は停止しなければなりません。このことは、CO中毒防止のために必須の周知活動となります。
 こうしたガスにとっての「不都合な真実」を今後どのように改善し、分散・自立型のエネルギーシステムを確立していくのかがガス業界には求められています。ガスの「不都合な真実」は、ガス利用者にとっては「想定外」であっても、ガス業界としては決して「想定外」ではなかったはずです。これを隠せば、原発の二の舞です。

■「復旧」のエネルギーは「復興」を担えるか
 LPガスは今回も復旧のエネルギーとして被災地では高い評価を得ています。(社)神奈川県エルピーガス協会が1,000本のLPガス容器を被災地に無料提供するなど、業界でのさまざまな支援活動も展開されています。マスコミ報道が少ないこと、都市ガス業界に比べて支援活動の指揮系統が不明瞭であることなど、問題点は少なくありませんが、復旧活動で一定の役割を担っていることは間違いありません。課題は、それが「復興」のエネルギーとしても受け入れられるのか、ということです。
 阪神淡路、新潟中越など、過去の大災害においても、LPガスは「復旧」エネルギーとして高い評価を受けつつも、「復興」時には、電力や都市ガスの後塵を拝していました。
 しかし今度こそ、分散・自立型エネルギーのLPガスとそのサービス事業者が、日本のエネルギー利用の主要なポジションを占めていかねばなりません。今回の未曽有の災害で、ネットワーク型の系統連系電力や導管ガス供給の弱点が再び露呈し、分散・自立型エネルギーの有用性は強く認識されたのですから。

■「ガスか電気か」は意味がない
 電力不足が言われる中、都市ガス発電で自立する東京・六本木ヒルズが話題となりました。分散・自立型のエネルギー利用のあるべき姿であり、今後、富裕層ほどエネルギーの複合・融合利用を求めていくはずです。これを、一部の限られた層だけの恩恵とせず、広く社会全体に広めていくことで、住産業やエネルギービジネスも新しい展開があるでしょう。
 電力会社不信が広がったとしても、屋内電化の流れは大きく変わることはないでしょう。「停電で照明も暖房もない家の中で、電池式のガスコンロの炎がありがたかった」という被災者は、「でも、断水でお湯を沸かすことはできなかったけど」と笑っていました。
 「ガスか電気か」という二律背反はお客様にとって意味のない議論です。災害はいつでも人知の及ばぬ「想定外」をもたらします。しかし、そうなっても被害を最小限にするしくみを備えつつ、平時においても安全で便利で経済的なエネルギー利用のかたちを提供していくことが、これからのエネルギーサービス事業者のあり方だろうと考えます。   

(2011年5月1日 中川順一)